過労死防止

「高度プロフェッショナル労働制」に対する声明   過労死等防止対策推進全国センター


過労死等防止対策推進全国センター
代表幹事 森岡孝二、寺西笑子、川人 博
 
1 「高度プロフェッショナル労働制」とは
 厚生労働省に設置された労働政策審議会の労働条件分科会は、本年1月16日、①働き過ぎ防止のための法制度の整備、②フレックスタイム制の見直し、③裁量労働制の見直し、④特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル労働制)の創設等を盛り込んだ報告書骨子案を示しました。
 このうち④は、「時間外・休日・深夜の割増賃金の支払義務等の適用を除外した新たな労働時間制度」(骨子案)とされ、一定範囲の正社員を対象に、労働基準法の時間規制を外し、時間外・休日・深夜を含め残業という概念自体をなくすものです。これが導入されると、使用者は36協定を締結して時間外・休日労働を命じることなく、労働者を無制限に働かせることができるようになります。これは第一次安倍内閣のとき「残業代ゼロ法案」として強い社会的批判を受け国会提出が見送られたホワイトカラー・エグゼンプション法案の焼き直しにほかなりません。
2 成果賃金制度ではなく固定賃金制度であること
 時間ではなく成果で支払うといわれていますが、今回導入されようとしているのは、成果主義賃金とは別物の固定賃金制です。基準となる労働時間が決まっていて超過時間数に応じて一定の割増率で残業代を支払う現在の時間賃金制を否定して、あらかじめ決められた額しか支給しない固定賃金制に変えるものです。
3 対象業務の拡大の危険
 対象業務にはディーラー、アナリスト、コンサルタントなどが例示されていますが、実際は専門業務や企画業務が広く対象とされ、現在過労死等が多発しているIT産業のSEなども対象になる可能性があります。
4 年収要件の切り下げの危険
 年収1075万円以上という要件は「一部の高所得者だけが対象」との印象を与えますが、いったん導入されると政令でどんどん下げていくことが可能です。日本経団連は以前のホワイトカラー・エグゼンプションの提言では、年収400万円以上の労働者を対象にすると想定していました。今回の新制度についても、経団連の榊原会長は昨年6月時点で、「全労働者の10パーセントぐらいは適用される制度」にするよう要求しています。いったん制定されれば、年収要件が引き下げられていくことは必定です。
5 長時間労働・健康悪化の歯止めがないこと
 政府は「本制度の適用労働者については、割増賃金支払の基礎としての労働時間を把握する必要はない」としながら、新制度がいっそうの長時間労働を招く心配を否定できないために、新たに「健康管理時間」や「休息時間」などの長時間労働の防止措置を講ずると言っています。しかし、これらは実効性が疑わしいうえ、具体的な時間数については法案成立後に「審議会で検討して省令で規定する」とされ、過労死防止の歯止めになる保障はまったくありません。
6 働き盛りの30代、40代に過労死激増の恐れ
 高度専門業務に携わる労働者は、専門的・管理的職業従事者が多いと考えられますが、厚労省の過労死等の労災補償状況に関する資料によれば、専門的・管理的職業従事者のあいだでは、過労死・過労自殺が多発しています。2013年度の過労自殺(精神障害)に係わる労災請求では、専門・管理職が全体の26%(1409件中365件)を占めています。また、年収が1075万円以上の労働者の多くは30代後半から40代と考えられますが、この年齢層のホワイトカラーのあいだでは過労死と過労自殺が多発しています。
7 「プロフェッショナル労働制」導入に断固反対する
 私たちは、過労死をなくしたいという願いから過労死防止法の制定に取り組み、法制定後は過労死防止対策の推進に全力を尽くしていますが、この「プロフェッショナル労働制」は過労死防止法に逆行して過労死を広げるものであり、断固として反対するものです。
 
2015年2月5日

ストップ!過労死 過労死防止法制実行委員会声明

過労死防止法の歴史的な成立に当たって

2014年6月20日
ストップ!過労死 過労死防止法制定実行委員会
委員長  森岡孝二

  本日、参議院本会議において「過労死等防止対策推進法」(以下「過労死防止法」または単に「法」という)が可決、成立し、6か月以内に施行されることとなった。

1 実行委員会結成までの経緯
  過労死が日本の深刻な社会問題として広く知られるようになったのは、「過労死110番全国ネットワーク」が開設された1988年からである。その後、過労死家族の会と過労死弁護団の持続的な取り組みによって、過労死の労災認定の厚い壁は徐々に乗り越えられてきた。また、近年では過重労働による健康被害を防止するための政府・厚生労働省の対策も進められてきた。にもかかわらず、若い年代層に広がる過労自殺を含め、過労死の労災請求件数は年々増え続けている。そのような状況のもとで、2008年頃から過労死防止基本法の制定を求める気運が高まり、2010年10月13日、衆議院議員会館において準備集会が開催され、2011年11月18日に本実行委員会が結成された。

2 法制定までの取り組み
  実行委員会は、過労死はあってはならないことを国が宣言することなどを求めた「100万人署名」に取り組み、寄せられた署名は55万筆を超えた。過労死防止法の制定を求める意見書を採択した自治体は、10道府県議会を含む全国120地方議会に及んでいる。
  これまでに170名から250名規模の院内集会が10回開催され、毎回、多数の議員から賛同を得る中で、昨年6月には過労死防止法の制定を求める超党派の議員連盟が発足した。そして、12月には、野党6党が先行するかたちで「過労死等防止基本法案」を衆議院に提出した後、自民党内で調整が進められ、本年4月には、後に超党派議連案となった「過労死等防止対策推進法案」がまとまった。家族の会メンバーは、昨年の秋以降、連日のように、過労死防止法の早期制定を求めて粘り強く議員への要請活動をおこない、また、本年5月23日の衆議院厚生労働委員会と6月19日の参議院厚生労働委員会において、家族の会の代表が意見陳述をおこなう中で、ついにこの日を迎えたものである。

3 法制定の意義
  この法律の最大の意義は、初めて過労死の防止を国および自治体の責務として定めるとともに、過労死防止のための対策として調査研究、啓発、相談体制の整備、民間団体の活動支援などを盛り込んだ点にある。これによって、これまで不十分であった過労死の総合的な調査研究が国の責任で行われることになった。また、国や地方公共団体による広報・教育活動や、11月の「過労死等防止啓発月間」を通して、過労死の防止を国民的課題としていく新たなステップが踏み出された。
  そして、法は、政府が過労死等の防止対策に関する大綱を作成すること、その大綱の作成にあたっては、過労死遺族らも加わった「過労死等防止対策推進協議会」の意見を聴くこと、政府は毎年過労死白書を国会に提出し、過労死等の概要と政府の過労死防止対策の実施状況を公表すること、調査研究の結果を踏まえて、必要が認められれば、法制上・財政上の措置を講ずること、および法施行後3年を目途に見直しを行うことを明記している。
  私たちは、過労死防止に向けた歴史的な一歩といえるこの法律の成立を深い感慨をもって受け止めるとともに、この法律が実効性を発揮していくよう、厚労省・関係諸団体とも連携して、いっそう努力していく所存である。

以上

◇実行委員会声明のPDFはこちらです。

〔声明〕過労死等防止対策推進法の成立にあたって 日本労働弁護団

過労死等防止対策推進法の成立にあたって

2014年6月20日
日本労働弁護団 会長 鵜飼良昭

 本日、参議院本会議において、過労死等防止対策推進法が全会一致で成立した。

 同法は、過労死等防止対策を効果的に推進する責務が国にあることを明記し、地方公共団体や事業主に過労死等防止対策への協力を求め、過労死等防止啓発月間を設けるとしている。また、国が過労死等の調査・研究、過労死等を防止するための国民啓発活動、過労死等の相談体制の整備等を行うものとし、政府に、過労死等防止対策の効果的推進のため、過労死等防止対策の大綱を策定し、日本における過労死等の概要や過労死等防止施策の状況に関する報告書を毎年国会に提出することを義務づけている。

 日本労働弁護団は、2008年11月、第52回総会において「『過労死等防止基本法』の制定と長時間労働の規制強化を求める決議」、2012年11月、第56回総会において「『過労死防止基本法』の早期制定を改めて求める決議」を行い、過労死等を防止するための法律の制定をかねてから求めてきた。今般法制定に至ったのも、長時間労働や過労死・過労自殺が長期社会問題となる中、全国過労死を考える家族の会と過労死弁護団全国連絡会議の呼びかけによって結成された過労死防止基本法制定実行委員会が法律制定に向けて50万を超える署名を集め、数多くの議員要請を行い、院内集会を開き、過労死等の撲滅のための運動や世論が広く喚起されたことによるものであり、日本労働弁護団はその活動に敬意を表する。また、国が法律を制定し過労死等の防止のための一歩を踏み出したことも評価する。

 他方で、法律の名称が「基本法」ではなく「推進法」に止まり、事業主について国の過労死等防止対策への協力義務が規定されるのみで、事業主自身が積極的に過労死等を防止するための安全配慮の措置を取るべき義務が明記されないなど、内容に不十分な点もある。厚労省発表の「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」を見れば、労災補償の支給決定件数は、「過労死」など脳・心臓疾患は2年連続で増加、精神障害は過去最高で、この内、自殺(未遂を含む。)に係るものも増加し続けている。我が国における過酷な長時間労働や過労死・過労自殺の問題はますます深刻な事態となっている。政府は、過労死等に関する日本の過酷な現実を直視し、法施行後3年の検討時期までに更なる法制上又は財政上の措置を講じなければならない。

 過労死等防止対策推進法の成立は過労死等の撲滅のためのスタートである。国や地方公共団体、事業主は、過労死等防止のための実効性のある具体的取組を早急に開始し、過労死や過労自殺の根絶に繋げていかなければならない。

 また、政府の産業競争力会議や規制改革会議では、労働時間と賃金の関係を切断し、職務・成果に応じて報酬を支払うとする新しい労働時間制度なるものを始めとして、労働時間法制の規制緩和が財界の要求に基づき労働者側の意見を無視して議論されている。改めて論じるまでもなく、労働時間の量的規制は労働者の健康確保を目的とするものである。労働時間の量的規制を撤廃・緩和し、使用者との契約上の職務や成果が達成されるまで無限に労働に従事させることを許容することは、対象労働者の長時間労働を増大させ、過労死・過労自殺を促進する「過労死促進法」となることは明らかである。

 日本労働弁護団は、政府が日本の労働者の長時間労働や過労死等の現状を直視し、過労死等防止対策推進法と真っ向から矛盾する労働時間規制緩和の議論を直ちに停止して、長時間労働を規制し過労死等を撲滅するための具体的施策の実現を強く求めるものである。

過労死等防止対策推進法の成立にあたっての談話  全労連

「過労死防止法」の成立を歓迎し、過労死のない職場と社会の実現をめざす-過労死等防止対策推進法の成立にあたっての談話 -

 生きるために仕事した末に、死に追いやられる過労死。健康被害は今も増え続け、悲劇はなくなっていない。こうしたなか、過労死防止を国の責務と明記した初の法律「過労死等防止対策推進法案」が6月20日、参議院本会議で全会一致により可決され成立した。過労死遺族や弁護団などが長年にわたり世論と政治に働きかけてきた尽力のたまものである。全労連は、「過労死防止法」の取り組みや100万人署名に賛同・協力してきたものとして、法成立を歓迎するとともに、法制定を契機に過労死・過労自死のない職場と社会を一日も早く実現するため奮闘することを表明する。
 
 法律では過労死を「業務における過重な負荷による脳・心臓疾患や精神障害を原因とする死亡や自殺」と定義。国が実施する対策として、(1)過労死の実態の調査研究、(2)国民の関心と理解を深めるための啓発、(3)産業医への研修など相談体制の整備、(4)民間団体の活動支援―を列挙している。地方自治体や事業主にも協力を求め、「勤労感謝の日」を含む毎年11月を啓発月間としている。対策に当たっては国に大綱の作成を義務付け、過労死遺族や労使の代表をメンバーとして厚生労働省内に設ける「防止対策推進協議会」からの意見を参考にするとしている。また、調査研究結果や対策の実施状況を毎年国会へ提出するよう義務付け、施行後3年をめどに法律の内容を見直すこととしている。

 過労死を法律で明確に定義し、防止策の実施を国の責務としたことの意義は大きく、評価できる。一方で過労死をなくすための事業主の責務が明記されなかったことは3年後の法改正にむけた検討課題と指摘したい。全労連は、国が法の趣旨に則り過労死まん延の原因である長時間・過密労働の規制、労働者を使い捨てる「ブラック企業」の根絶など法の実効性を高める諸施策を進めることを要求する。とりわけ安倍政権と財界がたくらむ「残業代ゼロ」「過労死促進」の労働時間制度の見直しは長時間労働や過重労働防止に逆行するものであり、直ちに断念すべきである。

 過労死・過労自死のない社会、安全で健康に働ける職場をつくることは、国民誰しもの願いである。全労連はひきつづき国民の願い実現のため奮闘する。

2014年6月20日

全国労働組合総連合
事務局長 小田川 義和

過労死等防止対策推進法の成立に当たっての会長声明  日弁連

過労死等防止対策推進法の成立に当たっての会長声明


本日、「過労死等防止対策推進法」(以下「本法律」という。)が成立した。
 
当連合会は、国が、初めて「過労死」問題とその防止の重要性、過労死等のない社会の実現を正面から捉えた法律を成立させ、過労死等防止に向けて具体的な一歩を踏み出したことを評価する。
 
本法律は、社会から過労死等をなくすために、国、地方公共団体、事業主その他の関係する者の相互の密接な連携によって過労死等防止対策を行うとの基本理念のもと、特に、国は大綱を策定し、国の責務として①過労死の実態の調査研究、②教育活動等を通じた国民への啓発、③過労死のおそれのある者や家族が相談できる体制の整備、④民間団体の活動への支援という4つの対策を行い、過労死等の防止のために必要な法制上又は財政上の措置等につなげていくことを柱とし、加えて、遺族も参加する過労死等防止対策推進協議会を設置すること、政府が国会に、毎年、過労死等の防止のために講じた施策の状況に関する報告書(白書)の提出を義務付けることなどが規定されている。
 
過労死等に関する実態が必ずしも十分に把握されていない現状を踏まえ、上記調査は個人事業主や法人の役員等に係るものを含め広く調査研究の対象とするもので、労災手続で捉えきれていない過労死等の実態が明らかになることが期待される。
 
他方で、現在、政府は新たな成長戦略として労働時間規制の大幅な緩和を具体的に進めようとしている。
 
 当連合会は、2012年10月に佐賀で開催された第55回人権擁護大会において、「強いられた死のない社会をめざし、実効性のある自殺防止対策を求める決議」を採択し、過労自殺等の問題について言及した。また、2013年7月18日付け「『日本再興戦略』に基づく労働法制の規制緩和に反対する意見書」において、労働者の生活と健康を維持するため、労働時間規制の安易な緩和を進めないよう求めてきた。長時間労働が、労動者が人間らしく健康で働くことの障壁になるのみならず、過労死等の主たる原因の一つとなることに鑑みると、労働時間の規制緩和は、過労死等のない社会をめざす本法律や当連合会のこれまでの主張に反するものである。
 
当連合会は、本法律が過労死等の防止に実効性のあるものとなるよう、適正な運用を確保するとともに、この法律の成立を契機に、長時間労働の防止についての議論を進め、法制上の措置として現行の労働時間法制を見直すことを求める。併せて、本法律の目的に逆行しかねない長時間労働を可能とする労働時間の規制緩和について、再考することを強く求める。 
 2014年(平成26年)6月20日
  日本弁護士連合会
  会長 村 越  進
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