書評・本の紹介

「知的障害のある方の尊厳を守る ー日本知的障害者福祉協会としての取り組みー」、 優性思想と現代(4)―強制不妊手術から考えるー さぽーと 2020年11月号 日本知的障害者福祉協会

さぽーと11月号オンライン座談会
「知的障害のある方の尊厳を守る
ー日本知的障害者福祉協会としての取り組みー
優性思想と現代(4)―強制不妊手術から考えるー
さぽーと 2020年11月号 日本知的障害者福祉協会

11月号は重要なテーマが特集されています。タイトルには「人権」ではなく「尊厳」「尊厳」の方が根源的な表現のような印象もありますが、障害者権利条約の理解促進や人権保障の具体的な制度づくりの必要性を考える立場からすれば、違和感があるかもしれません。とはいえ、座談会では知的障害福祉現場の虐待事件や権利擁護のあり方が熱心に議論されています。サビ管や管理職の研修のあり方や事例の大切さが語られ、研修や事例検討の機会が大きく減少した日の出福祉園には大いに参考になる内容です。

しかし、議論の中身は福祉施設を対象にした対策が中心で、福祉施設で虐待事件や権利侵害が繰り返される原因を社会的文脈で考察する視点はほぼありません。現場の疲弊が語られても、なぜそうなのか社会情勢の分析もありません。知的障害福祉分野に限らず、コロナ感染症以前から福祉現場は人手不足、研修不足、職員の疲弊による退職、利用者虐待が続いていました。国への政策提言が語られても、「この仕事の価値をいかに上げていくか」と抽象的な言葉に終わるのであれば、結局は何も言っていないに等しいのではないでしょうか。政策委員会で権利を守るための具体的提案を現場から行えばよいという発言もありますが、障害者政策委員から知的障害当事者、精神障害当事者がいなくなって久しいのです。(最近はセクハラで訴えられた事業者の政策委員もいます。)知的障害者が発信力にハンデのあることが記されていますが、国の政策委員会から当事者が排除されている事実は議論されていません。福祉施設内の事は具体的でしたが、議論は総じて抽象的。タイトルの「人権」ではなく「尊厳」という言葉に象徴されるような座談会でした。

障害者がどんな社会状況に生きていたかを歴史的に検証している記事は、「優性思想と現代(4)」です。優性保護法の範囲を超えて子宮摘出を推奨した厚生省、禁止されていた子宮へのX線照射の実施、子宮摘出を入所の条件にしたり、手術を研究大会で肯定的に発表した施設、子宮摘出を当然視する専門家や社会への障害当事者団体や弁護士、親の会の抗議行動などが記されています。民主主義国家日本の、背筋が寒くなるような歴史が記されています。

特集の座談会では優生保護法や強制不妊手術には一言も触れられていません。戦後日本の負の歴史と自らの関与を検証することなく、「知的障害のある方の尊厳を守る」ことなどできるはずがはありません。「優性思想と現代」の連載は12月号まで延びたそうです。自らの負の歴史に向き合わない日本知的障害者福祉協会は、私たちの反面教師です。現場で働く私たちはこの事実にしっかりと向き合いましょう。私たちの仕事の意味を考えるために、必ず読みましょう!(林)
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日本知的障害者福祉協会と優生手術の関わりについて、南部労組・福祉協会のHPに詳細な記事があります。
https://jaidunion.wordpress.com/2018/05/30/about-support-201805-pt1/
https://jaidunion.wordpress.com/2018/06/01/about-support-201805-pt2/

さぽーと 2020.10月号  優性思想と現代(3)

さぽーと10月表紙ぽーと 2020.10月号 日本知的障害者福祉協会
優性思想と現代(3)

今号は旧優生保護法にもとづく強制不妊手術の適否を決定した都道府県優性保護審査会の実態が記されています。申請書には申請理由が「遺伝防止のため」とあるのに、調査書には「遺伝関係なし」と書かれているなど、いかに審査が形骸化していたかがわかります。審査会が手術に反対する親族の陳情を考慮せずに手術を認めたり、あろうことか、拒否する親を行政が執拗に説得したという記録もあります。
審査会メンバーは医師、行政担当者、民生委員、裁判官、検察官や有識者。入所施設の障害者も申請されていますから、福祉関係者、学校関係者、家族も関与しているでしょう。 近藤益雄のような障害児教育・福祉の大家でさえも、強制不妊手術を是としていました。主観的に善意だったか悪意だったかを問わず、客観的には多くの人たちが寄ってたかって障害者の人権を侵害してきたというのが、この国の歴史的事実なのです。

ナチスドイツが精神障害者をガス室で殺害したT4作戦は、政府による中止命令後にも末端の現場で殺害が継続されました。現代の日本においても、心神喪失者等医療観察法が法制定時の政府答弁や法の想定した対象者の範囲を逸脱して適用されています。「疾病性」、「治療反応性」という要件を超えて、精神疾患を有しない知的障害者やパーソナリティ障害の人が申し立てられ入院処分を受けているのです。ひとたび制度ができあがるとそれは一人歩きし、その維持のために運用は暴走します。

審査会で適とされたのは、主に知的障害者、精神障害者だったと記されています。日本知的障害者福祉協会がこの問題への自らの組織的関与を検証する必要がここにあります。全日本手をつなぐ育成会連合会は組織的検証を行って結果を公表し、声明を発表しています。日本知的障害者福祉協会が何もしないで良いわけではありません。日本の障害福祉の負の歴史に向き合わなければ、これからの障害福祉は語れません。負の歴史に目を背けながら夢を語れば、それは詐欺行為に等しくなります。本当に深刻な事実です。ぜひ読みましょう。支援者の私たちが目を背けてはいけません。(林)

機関誌と協会の姿勢の乖離について さぽーと 2020.9月号 日本知的障害者福祉協会

さぽーと9月号表紙機関誌と協会の姿勢の乖離について
さぽーと 2020.9月号
日本知的障害者福祉協会

SEMINARは前号に引き続き、「優生思想と現代ー強制不妊手術から考えるー」。旧優生保護法の下で、強制不妊手術が具体的にどう進められてきたのかが記されています。知的障害者施設「小松島学園」における勧奨に記されているように、福祉施設も関与しています。末文にあるように、「行政と福祉・医療・教育が一体となって、あるいは、地域社会ぐるみで推し進められた」強制不妊手術は、やはり日本社会総体として振り返られなければいけません。

私はさぽーとに歴史的事実が具体的に記載されているにもかかわらず、日本知的障害者福祉協会が自身の関与について組織的な検証作業を行わず、協会として何も意見表明していないことをとても奇異に感じます。全国手をつなぐ育成会連合会は第三者をメンバーにした検証作業を行って意見表明しているのです。協会機関誌に掲載されていることと協会の現実の姿勢が異なることに対して、会員施設や読者が何も異を唱えなければ、そんな協会の矛盾した姿勢が社会的に認められることになりかねません。

専門委員の視点からには「大人のいじめを防止する」という記事がありました。昨年6月に成立したパワハラ防止法やILOが採択した暴力およびハラスメント撤廃条約についても解説されています。
これに関しても日本知的障害者福祉協会の姿勢は不可解です。南部労組・福祉協会の組合員が協会事務局内のパワハラを問題にして団体交渉を重ね、東京都労働委員会で長く係争中となっています。機関誌にパワハラの解説を掲載するのであれば、協会は組合が加害者だと主張する職員をなぜ団体交渉に出席させないのでしょうか。なぜ両者の話を聞いて労使間で事実検証と共通認識の形成に向けて努力しないのでしょうか?今後もその管理職を団体交渉の場に参加させないのであれば、職場のハラスメント問題を解決しようとする姿勢には程遠いと言わざるをえません。

以前は問題とならなかったことが、ハラスメントとして考えられることもあります。それは昔がおおらかだったからではなく、昔は不条理なことに我慢して声を出さなかった人がたくさんいたにも関わらず、社会全体としてはそれが問題だと見なされかったからです。多くの人が加害的立場だった旧優生保護法と共通しています。それは現代の人権感覚では許されません。障害者権利条約もそうですが、人権思想はこうやって国際的に発展しています。ハラスメントは難しい問題です。条件次第では誰もがハラッサーになりえます。だからこそ、慎重かつ丁寧な検証が求められます。労働者が労働組合に入り団体交渉を通して問題解決を図ろうとしているのに、経営側が真摯に応じないならば、そんな組織は社会的役割を果たせません。

日本知的障害者福祉協会には言行一致の努力をしてほしいと思います。これでは建前だけのさぽーとになってしまいます。(林)

さぽーと 2020.8月号 日本知的障害者福祉協会

さぽーと8月号さぽーと 2020.8月号
日本知的障害者福祉協会

さぽーと8月号の特集「おもいを聴く」には成年後見制度利用促進基本計画についてという弁護士の方が書いた記事があります。日弁連も利用促進法制定に積極的でしたが、支援付き意思決定をぬきにした代理決定である「後見」類型は障害者権利条約違反であるという指摘が、障害者団体からなされてきました。記事は国連障害者権利委員会の日本政府への事前質問も紹介して、今後国連から厳しい勧告を日本政府が受けるであろうこと、現行の成年後見制度を改正せずに運用改善するだけでは権利条約違反となるであろうことを指摘しています。

SEMINERは優生思想と現代ー強制不妊手術から考えるー。旧優生保護法での強制不妊手術は医師、看護師などの医療職や行政関係者だけでなく、児童委員や民生委員、福祉関係者、親の会、医療福祉学術・職能団体、学校関係者など、多くの人が関与しているでしょう。近藤益雄のような障害児教育・福祉の大家ですら、強制不妊手術を是としていた時代が長く続いていました。全国手をつなぐ育成会連合会は自らの組織的関与について第三者委員による検証を行い、結果とそれを受けた育成会連合会の意見表明を公表しています。検証会には、日の出福祉園の人権研修でおなじみの関哉直人弁護士がメンバーでした。関哉弁護士は優生保護法東京訴訟の弁護団長でもあります。日の出福祉園の人権研修は昨年度から開催できていません。私たちは人権研修を聴講して終わりではありません。社会問題に目を向けなければ福祉の仕事はできません。コロナ感染症のために今年度の人権研修も開催が危ぶまれます。来月号に続編があるようですので、社会福祉を担う者としての責任をもって、続編もぜひ読みましょう!(林)

特集「ヒヤリハットからにこりほっとへ」 さぽーと2020.7月号 日本知的障害者福祉協会

さぽーと202007特集「ヒヤリハットからにこりほっとへ」
さぽーと2020.7月号 日本知的障害者福祉協会

面白い特集です。はじめに登場するのは「入居者とスタッフの笑顔を増やす介護 『にやりほっと』の取り組みについて」という介護保険事業を運営する株式会社長谷工シニアホールディングス。さぽーとに営利法人の介護保険事業所が取り上げられるのは、これまでになかったことではないでしょうか?

タイトルにあるように、論文には支援ではなく介護と記されています。にやりほっとの取り組みを記した「魔法の介護」という本も紹介されています。
かつて日の出福祉園では「それは介護だよね、支援じゃないよね。」といった指導が中間リーダー層職員から一般職員になされていた時代がありました。利用者さんの高齢化と重度化にともない、日常生活に介護が必要な人たちがたくさんいるにもかかわらず、当時の施設長や指導的立場の職員が知的障害福祉の仕事は介護ではないという考えをもっていたからでした。

現在もその思想は知的障害福祉の領域に根強くあるようです。昨年度の同愛会東京事業本部の職員研修では、知的障害福祉の仕事を特徴づけるものとして「意思決定支援」が「介護」に対置されるものとして説明されました。(意思決定支援はもともと医療の領域の言葉で、福祉領域でも知的障害福祉だけに求められるものではありません。)介護の必要な利用者さんを目の前にして、知的障害者というラベルで介護を否定する。これがラベリングの恐ろしさです。

現代の支援はストレングスモデルにもとづくエンパワメントです。日の出福祉園で取り組んでいたSSTも、いいところ探しが肝でした。にやりほっと(にこりほっと)は利用者さんのストレングスに着目してそれを支援者みんなで共有しようという試みです。SSTのように時間は取らないので、例えば朝の連絡会での1分間スピーチや園内メールなどを使って各部署持ち回りで発表するなど、やり方は色々と工夫できると思います。

営利法人、特に知的障害福祉以外の領域の事業所の実践がさぽーとに掲載される意義はとても大きいと思います。人間の支援に障害種別は関係がありません。今後も障害種別を超えて事業所の取り組みを紹介してほしいと思いました。(林)
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