さぽーと10月表紙ぽーと 2020.10月号 日本知的障害者福祉協会
優性思想と現代(3)

今号は旧優生保護法にもとづく強制不妊手術の適否を決定した都道府県優性保護審査会の実態が記されています。申請書には申請理由が「遺伝防止のため」とあるのに、調査書には「遺伝関係なし」と書かれているなど、いかに審査が形骸化していたかがわかります。審査会が手術に反対する親族の陳情を考慮せずに手術を認めたり、あろうことか、拒否する親を行政が執拗に説得したという記録もあります。
審査会メンバーは医師、行政担当者、民生委員、裁判官、検察官や有識者。入所施設の障害者も申請されていますから、福祉関係者、学校関係者、家族も関与しているでしょう。 近藤益雄のような障害児教育・福祉の大家でさえも、強制不妊手術を是としていました。主観的に善意だったか悪意だったかを問わず、客観的には多くの人たちが寄ってたかって障害者の人権を侵害してきたというのが、この国の歴史的事実なのです。

ナチスドイツが精神障害者をガス室で殺害したT4作戦は、政府による中止命令後にも末端の現場で殺害が継続されました。現代の日本においても、心神喪失者等医療観察法が法制定時の政府答弁や法の想定した対象者の範囲を逸脱して適用されています。「疾病性」、「治療反応性」という要件を超えて、精神疾患を有しない知的障害者やパーソナリティ障害の人が申し立てられ入院処分を受けているのです。ひとたび制度ができあがるとそれは一人歩きし、その維持のために運用は暴走します。

審査会で適とされたのは、主に知的障害者、精神障害者だったと記されています。日本知的障害者福祉協会がこの問題への自らの組織的関与を検証する必要がここにあります。全日本手をつなぐ育成会連合会は組織的検証を行って結果を公表し、声明を発表しています。日本知的障害者福祉協会が何もしないで良いわけではありません。日本の障害福祉の負の歴史に向き合わなければ、これからの障害福祉は語れません。負の歴史に目を背けながら夢を語れば、それは詐欺行為に等しくなります。本当に深刻な事実です。ぜひ読みましょう。支援者の私たちが目を背けてはいけません。(林)