さぽーと9月号表紙機関誌と協会の姿勢の乖離について
さぽーと 2020.9月号
日本知的障害者福祉協会

SEMINARは前号に引き続き、「優生思想と現代ー強制不妊手術から考えるー」。旧優生保護法の下で、強制不妊手術が具体的にどう進められてきたのかが記されています。知的障害者施設「小松島学園」における勧奨に記されているように、福祉施設も関与しています。末文にあるように、「行政と福祉・医療・教育が一体となって、あるいは、地域社会ぐるみで推し進められた」強制不妊手術は、やはり日本社会総体として振り返られなければいけません。

私はさぽーとに歴史的事実が具体的に記載されているにもかかわらず、日本知的障害者福祉協会が自身の関与について組織的な検証作業を行わず、協会として何も意見表明していないことをとても奇異に感じます。全国手をつなぐ育成会連合会は第三者をメンバーにした検証作業を行って意見表明しているのです。協会機関誌に掲載されていることと協会の現実の姿勢が異なることに対して、会員施設や読者が何も異を唱えなければ、そんな協会の矛盾した姿勢が社会的に認められることになりかねません。

専門委員の視点からには「大人のいじめを防止する」という記事がありました。昨年6月に成立したパワハラ防止法やILOが採択した暴力およびハラスメント撤廃条約についても解説されています。
これに関しても日本知的障害者福祉協会の姿勢は不可解です。南部労組・福祉協会の組合員が協会事務局内のパワハラを問題にして団体交渉を重ね、東京都労働委員会で長く係争中となっています。機関誌にパワハラの解説を掲載するのであれば、協会は組合が加害者だと主張する職員をなぜ団体交渉に出席させないのでしょうか。なぜ両者の話を聞いて労使間で事実検証と共通認識の形成に向けて努力しないのでしょうか?今後もその管理職を団体交渉の場に参加させないのであれば、職場のハラスメント問題を解決しようとする姿勢には程遠いと言わざるをえません。

以前は問題とならなかったことが、ハラスメントとして考えられることもあります。それは昔がおおらかだったからではなく、昔は不条理なことに我慢して声を出さなかった人がたくさんいたにも関わらず、社会全体としてはそれが問題だと見なされかったからです。多くの人が加害的立場だった旧優生保護法と共通しています。それは現代の人権感覚では許されません。障害者権利条約もそうですが、人権思想はこうやって国際的に発展しています。ハラスメントは難しい問題です。条件次第では誰もがハラッサーになりえます。だからこそ、慎重かつ丁寧な検証が求められます。労働者が労働組合に入り団体交渉を通して問題解決を図ろうとしているのに、経営側が真摯に応じないならば、そんな組織は社会的役割を果たせません。

日本知的障害者福祉協会には言行一致の努力をしてほしいと思います。これでは建前だけのさぽーとになってしまいます。(林)