2018年11月29日

 11月29日、福祉保育労は外国人労働者の受け入れ拡大をおこなうための在留資格を創設する出入国管理法改正案が11月27日に衆議院で強行採決・可決されたことに対して、抗議声明を発表しました。
 介護職場での職員の賃金水準と職員配置基準を大幅に改善しないなか、安易に外国人労働者を受け入れて人材不足を解消しようとすることは許されません。外国人労働者の受け入れだけを拙速におこなおうとするもので、とうてい容認できず、法案は撤回し、国民的な議論を十分におこなうべきと考えます。

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【声明】「介護分野を含む外国人労働者受け入れ拡大」のための
出入国管理法案の強行採決に抗議する

2018年11月29日  
全国福祉保育労働組合
はじめに
 政府は11月2日、人材不足への対策として外国人労働者の受け入れ拡大をおこなうための在留資格を創設する出入国管理法改正案(以下、法案という)を臨時国会に提出した。現行の外国人技能実習制度の問題点が指摘され、その検証が審議入りの前提であるとする野党を押し切って11月21日に実質的な審議が始まった。政府が提出した同制度に関する調査集計が誤っていたなどの問題を含め、国民の疑問や不安が解消されないまま、政府・与党はわずか17時間の審議で11月27日に衆議院で強行採決した。
 福祉保育労は、政府・与党の強権的な国会運営に対して、強く抗議するものである。
 受け入れ拡大の対象には介護分野が含まれており、2019年度からの5年間で6万人の受け入れが想定されている。福祉保育労は、2014年10月に「福祉労働者の確保と定着、養成に関する基本政策(緊急提言)」を発表するなど、介護に限らず社会福祉事業の人材確保には、大幅な増員と処遇改善が必要であることを明らかにしてきた。

1.介護分野での人材不足とその要因
① 2018年5月21日に厚生労働省が報道発表した「第7期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について」(以下、厚労省発表文書という)によると、介護人材の需要は2020年度末で216万人、2025年度末には245万人となっている。これを基に、2016年度の就労者数190万人に加えて、2025年度末までに55万人(毎年6万人)の人材確保が必要とされている。
② 一方で、2017年度の有効求人数258万人に対して有効求職者数が72万人しかなく、有効求人倍率は3.57倍となっている。介護職場では慢性的な人手不足の状態にあり、短時間での業務の申し送りさえ十分にできず、長時間・過密労働で健康を害して離職する人も後を絶たない。結果として、利用者処遇の低下を招き、安全確保さえ困難になっている。
③ 介護分野での極端な人手不足の要因は、全産業平均と比べて月額10万円も低い賃金水準であることにある。さらに、夜勤時間帯でのいわゆるワンオペで介護職員に身体的・精神的な過重負担が強いられるなど、国の定める職員配置の指定基準が現場での介護に必要な人員に見合っていないことも大きな要因となっている。

2.政府の介護人材確保施策は極めて不十分である 
① 厚労省発表文書では、「国においては、①介護職員の処遇改善、②多様な人材の確保・育成、③離職防止・定着促進・生産性向上、④介護職の魅力向上、⑤外国人材の受入環境整備など総合的な人材確保対策に取り組む」としている。
② しかし、政府の処遇改善策は、一定の要件を満たした場合に介護報酬に加算するしくみであり、改善対象は限られている。介護報酬の基本部分の大幅な引き上げなしに、すべての介護労働者の賃金底上げは実現できない。また、政府は職員配置の基準引き上げには、「経営を圧迫する恐れがある」などとして一貫して消極的な姿勢である。
③ こうした点を改善することなしに、安易に外国人労働者を受け入れて人手不足を解消すれば、賃金水準も職員配置も現状のままで放置されることが強く懸念される。

3.外国人労働者を受け入れる環境にはない
① 法案では、「一定の専門性・技能を有する」者が対象であるとされているが、介護分野では日本語でのコミュニケーション能力や日本特有の文化への理解などがなければ、個々の利用者の状況に合わせたきめ細かい介護を提供することはできない。こうした点を、どのような基準で判断するのかなど、解決すべき問題は山積している。
② 法案の新在留資格「特定技能1号」の付与にあたっては、3年の経験がある技能実習生は「技術も日本語能力も一定水準を満たしている」として、所管省庁(厚労省)が定めた試験を受けずに資格変更を認めている。衆議院での法案審議では、5年間の受け入れ総数の45%が技能実習生からの移行であることが明らかとなった。
③ 技能移転を通じた国際貢献を目的とした技能実習制度は、実際には長時間不払い労働や最低賃金違反などに加えて人権侵害が横行し、国際的にも「現代の奴隷制度」と批判されている。そのため、2016年に成立した外国人技能実習法改正によって人権侵害行為が禁止された経緯があるが、依然として人権侵害が相次いでいる。
④ 介護分野では、同改正時に対象職種に加えられ、受け入れを始めたばかりであり、法令違反や人権侵害がない状態で受け入れられているかの十分な検証さえできていない。この段階で、新たな在留資格の付与を議論すること自体が性急すぎる。
⑤ また、介護分野は対象とされていない「特定技能2号」では、長期滞在や家族の帯同が認められる。しかし、法案の所管が厚生労働省ではなく出入国在留管理庁であることから、家族を含めた社会保障など生活面での支援体制が整わないことも強く懸念される。

4.拙速な外国人労働者の受け入れをすべきではない
① 前述のとおり、業務の申し送りさえできない現場実態にある現時点では、ていねいに技術を伝えることなど到底無理であり、受け入れ環境が整っているとはいえない。厚労省発表文書でも、介護人材確保対策のひとつとして「外国人材の受入環境整備」にとりくむとしている。
② 今回の出入国管理法改正案は、政府の不十分な介護人材確保対策の改善や外国人材の受入環境整備を図らないままに、外国人労働者の受け入れだけを拙速におこなおうとするものであり、とうてい容認できず、法案は撤回したうえで国民的な議論を十分におこなうべきである。

以 上 

【声明】「介護分野を含む外国人労働者受け入れ拡大」のための
出入国管理法案の強行採決に抗議する(PDFファイル)2018/11/29全国福祉保育労働組合