日本自然保護協会HPより

沖縄・辺野古での軍普天間飛行場代替施設建設事業(以下、「同事業」)について、2016年12月末より日本政府が工事に伴う作業を再開しており、汚濁防止膜の設置など護岸工事に必要な準備を終えたことから、今週にも同工事に着手されると報じられています。
今回着手される工事は現状回復が困難であるものです。
日本自然保護協会は、「すでに環境への影響が及んでいること」、「事業者の環境保全への姿勢について問題があること」、「本海域の保全の重要性が高まっている」ことから、公有水面埋立承認の撤回を要望しました。
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2017年4月17日
沖縄県知事   翁長 雄志 様
                         公益財団法人 日本自然保護協会
理事長  亀山 章

米軍普天間飛行場代替施設建設事業の公有水面埋立承認の
撤回について再度の要望書

米軍普天間飛行場代替施設建設事業(以下、「同事業」)について、昨年12月末より日本政府が工事に伴う作業を再開しており、汚濁防止膜の設置など護岸工事に必要な準備を終えたことから、今週にも同工事に着手されると報じられています。

同事業が予定されている辺野古・大浦湾一帯は、世界の生物多様性のホットスポットのひとつと認識されている日本でも生物多様性が特に高い地域であり、環境省の重要海域の1つとして選ばれ、沖縄県の自然環境の保全に関する指針ランクⅠ(自然環境の厳正な保護・保全を図る区域)に指定され、その豊かさは日本自然保護協会をはじめとする環境団体や日本生態学会(2014)などから認められています。しかし、これまでの工事に伴う作業の影響がすでにこの大切な環境に及んでおり、さらに今回着手される工事は現状回復が困難であるものです(朝日新聞 4月15日)。今週にも着工とのことから、私たちは事業に関して予定地の生物多様性豊かな自然環境を守る市民運動に取り組んでいる立場から以下の点について要望いたします。

1)すでに環境に及んでいる影響
(1)コンクリートブロックによる環境への影響
沖縄防衛局は今年2月から3月31日までに本海域の同事業の予定地に合計228個もの11-14トンの重さのコンクリートブロックを、汚濁防止膜展開のために投下しました。またこの海域には2015年にも浮標を固定するために大型のコンクリートブロックが海底に設置されており、海域への影響はすでに大きいものと予測され、その様子の一部は「平成26年度大浦湾コンクリート製構造物等設置状況確認業務報告書(平成27年3月)」と「キャンプ・シュワブ臨時制限区域内立入調査業務実績報告書(平成27年9月)」にて確認することができます(日本自然保護協会 2015)。

(2)ジュゴンの行動への影響
1990年代は沖縄島東海岸にて多くのジュゴンの目視記録や食痕の記録がありました。環境影響評価およびその事前調査の際にはジュゴンの本海域の利用記録はなくなりましたが、同評価終了後には、徐々にジュゴンの食痕の記録が辺野古・大浦湾に戻り、2014年には臨時制限区域の内外でジュゴンの個体Cのものと思われる食痕が数多く記録されました(U.S.Marine Corps Recommended Findings 2014、沖縄防衛局 2015など)。
その後、毎年春に個体Cが利用していたチリビシのミドリイシ群集付近の水深19mに広がるトゲウミヒルモ群集においては、2015年春を最後に利用の記録がありません(北限のジュゴン調査チーム・ザン、日本自然保護協会の調査結果、沖縄防衛局によるシュワブ水域生物調査報告書(2015、2016)およびジュゴン監視等業務より)。
つまり、ジュゴンの生息域であった辺野古・大浦湾をジュゴンが放棄せざるを得ないようなことが起こったと推測され、音に敏感なジュゴンがボーリング調査や警戒船に伴い生じる騒音に起因すると考えられます。

2)事業者の環境保全への姿勢についての問題
これまでの経緯から、事業者である沖縄防衛局が環境保全に配慮しながら今後の工事を進めるとは到底考えられません。以下に例をあげます。

(1)岩礁破砕について
1)で述べたコンクリートブロック投下に伴う岩礁破砕については、2015年3月の国会の答弁で沖縄県が沖縄県漁業調整規則の解釈権を持つことが確認されています(3月25日 衆議院外務委員会 赤嶺政賢議員)。また、沖縄県が漁業調整規則の内規でサンゴ礁の保護を重視する立場から岩礁破砕について「細心の注意を払う必要がある」と定めていることの正当性についても確認されましたが、事業者が同事業を進めるにあたり「細心の注意を払っている」とは考えられません。

(2)サンゴの採捕許可について
沖縄県では、沖縄県漁業調整規則により造礁サンゴ類の採捕が禁止されており、移植の実施に際しては沖縄県知事の特別採捕許可が必要です。しかしながら、事業者からはその届出がいまだ提出されていません。事業者は環境を保全する姿勢に欠けるとともに、自ら作成した同事業の公有水面埋立承認願書の環境保全措置との乖離があります。
日本サンゴ礁学会(2008)や日本自然保護協会(2016)が記したよう、サンゴ移植の技術が未確立であるため、サンゴの移植は環境保全措置として十分ではありませんが、事業者が移植の試みもせず工事を進めようとする姿勢は問題であり、またサンゴ礁を大切に利用するために作られた漁業調整規則を無視する姿勢も問題です。

3)高まるサンゴ礁生態系の保全の重要性
この海域の海草藻場の重要性はさらに高まっています。沖縄島北部に生息するジュゴンの個体数はこれまで3頭とされてきましたが(2013、沖縄防衛局)、昨年子供と思われる新たな個体が発見されていることが今年3月に明らかになりました(沖縄タイムス、3月20日)。ジュゴンの生息に必須である藻場は沖縄島周辺にはあまり残っていないことから、沖縄島周辺最大の規模を誇る辺野古・大浦湾の海草藻場はジュゴンの生息を支える最後のとりでとなります。
また、辺野古・大浦湾のサンゴ礁は、昨年夏の高水温等の影響を受け、埋め立て予定地に隣接する場所のサンゴの被度が下がるなどの影響を受けています(日本自然保護協会、美ら海を守り、活かす海人の会の調査結果より)。
したがって、この海域の海草藻場をはじめとするサンゴ礁生態系の保全を、よりいっそう力を入れて進めることが必要となっています。

上記の通り、すでに環境への影響が及んでいること、事業者の環境保全への姿勢について問題があること、本海域の保全の重要性が高まっていることから、米軍普天間飛行場代替施設建設事業公有水面埋立承認の撤回を行う理由になると考えられます。

沖縄県には沖縄の大切な財産である辺野古・大浦湾のサンゴ礁を守っていただきたいと強く願っています。そのためには工事をただちに停止させることが必要であり、早急に公有水面埋立承認を撤回されるよう再度要望いたします。
参考文献:
1) 環境省 生物多様性の観点から重要度の高い海域
2) 沖縄県自然環境の保全に関する指針~沖縄島編~(沿岸域)
3) 日本生態学会(2014)著しく高い生物多様性を擁する沖縄県大浦湾の環境保全を求める19学会合同要望書
4) 日本自然保護協会(2015)沖縄防衛局による岩礁破砕の有無の確認に関する沖縄県の判断についての質問と岩礁破砕許可取り消しの要望http://www.nacsj.or.jp/archive/2015/12/591/
5) 日本サンゴ礁学会(2008) 造礁サンゴ移植の現状と課題
6) 日本自然保護協会など(2016)沖縄防衛局によるサンゴ移植に際して、沖縄県が特別採捕を不許可にすることへの支持と岩礁破砕許可を今後更新しないことについての要望http://www.nacsj.or.jp/archive/2016/08/623/
7) 北限のジュゴン調査チーム・ザンのブログ 2015年4月15日調査結果
8) 沖縄防衛局(2013)普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価(補正後)
9) 沖縄防衛局(2015)シュワブ(H25)水域生物等調査報告書
10) 沖縄防衛局(2016)シュワブ(H26)水域生物等調査報告書