「ソーシャルワークとしての就労支援」サポート1
―ディーセントワークの確立に必要なもの―  
さぽーと 2015年10月号  日本知的障害者福祉協会

さぽーとで再びディーセント・ワークが取り上げられています。(前回は2014年10月号特集1の論文でディーセント・ワークの内容に7つの概念が示されています。

①地域社会での暮らしが提供されること
②社会から認められる役割があること
③「働けない」ことを「障害の問題」にしないこと
④合理的配慮がなされ、「強み」が発揮できる環境が提供されること
⑤ニーズに応じた様々な働きが実現できること
⑥働きに応じた正当な賃金が得られること
⑦チャレンジできる、学習できる環境が提供されていること

これらの実現に向けた基本的視点として以下が前提とされています。
1.障害のある人を「権利の主体・働く主体」として位置付けること
2.「工賃の向上」は、ディーセント・ワークの一つの概念であり、その実現は、他の概念との関連性の中で考えること
3.ディーセント・ワークの実現は、ソーシャルワークを基本とした活動であること

厚労省の定義によるとディーセント・ワークとは
① 働く機会があり、働きに応じた収入が得られること
② 働く上での権利が確保され、職場で発言が行いやすく、それが認められること
③ 家族の生活が安定しており、自己の鍛錬もできること
④ 公正な扱い、男女平等な扱いを受けること

②の働く上での権利とは、年休や生理休暇や、雇用契約に記された権利だけを指すのではありません。労働者には基本的権利として団結権、団体交渉権、争議権の労働三権(労働基本権)があります。それが保障されていなければ働く上での権利が確保されている状態ではなく、ディーセント・ワークとは言えません。

障害を持つ人のディーセント・ワークも同じです。障害を持つ労働者も労働基本権を有します。論文には、基本的視点に「権利の主体」とあるにもかかわらず、7つの概念からは労働者としての権利の保障がこぼれ落ちています。

なぜ障害者の就労支援から労働基本権とその保障の問題が欠落するのでしょうか?障害者には労働基本権は適用除外とするのなら、そんな就労支援は障害者差別です。一般就労はもちろん、用語解説にもあるトライアル雇用や、雇用型の就A事業所で働く障害者は労働者です。就労支援にあたる支援者が、彼ら彼女らを福祉サービス利用者としか見ないようでは、それは明白な障害者差別です。

支援者である私たちは、ディーセント・ワークの概念を抽象的な理念レベルで理解するのではなく、具体的な権利保障の視点をもって支援にあたらなければいけません。障害者のディーセント・ワークをテーマとするであれば、貧困ビジネスで使役の対象とされる障害者や、「悪しきA型問題」について、さらに障害者向けの労働者派遣業の実態の検証が必要ではないでしょうか?さぽーとが現実社会に具体的に言及しないのであれば、そこで語られるディーセント・ワークも現実から遊離した抽象的な理念と掛け声に終わってしまうのではないでしょうか?
 
ディーセント・ワークはWHO(世界保健機構)ではなくILO(国際労働機関)から提唱された概念です。支援者が労働関係法規に疎く、労働者としての権利に無自覚で、それをいちども行使したことがなければ、ディーセント・ワークを目指す就労支援などできるはずもありません。(