「生活保護法施行規則の一部を改正する省令(案)」の
修正を求める意見書
全国労働組合総連合
議長 大黒作治
<要旨>
 意見募集に付されている「生活保護法施行規則の一部を改正する省令(案)」は、生活保護法改正に関わって国会で法文修正等がなされた経緯を無視し、保護を必要とする国民に対する権利侵害を誘発しかねない内容であり、到底認めがたい。(1)申請書の提出は従来どおり申請の要件ではないものとすること、(2)要否判定に必要な資料の提出は可能な範囲で保護決定までの間に行うものとすること、(3)扶養義務者に対する通知や報告要求は家庭裁判所を活用した費用徴収が行われる蓋然性が高い場合に限定するものとすることなどを明記する省令に書き直すべきである。
<意見>
 7月1日から施行される改正生活保護法の運用に関わって、貴省が検討されている省令案には、重大な問題があり、抜本的修正が必要である。昨年12月に成立した生活保護法は、申請手続の厳格化等により、保護を必要とする国民を「水際」や「沖合」で追い返すものとの批判が沸き起こり、国会審議において、批判をふまえた法文修正や答弁による確認、附帯決議がなされたはずである。ところが、本省令案は、法文修正や付帯決議を事実上なきものとし、修正前の内容に差し戻す内容となっている。国会審議の結論を行政が覆し、今でもハードルが高い生活保護の申請をますます困難にさせ、保護を必要とする人々の権利を退け、餓死・孤独死を増やしかねない事態を招こうとするなど、許されるものではない。
 私たちは、この省令案について、(1)申請書の提出は従来どおり申請の要件ではないものとすること、(2)要否判定に必要な資料の提出は可能な範囲で保護決定までの間に行うこと、(3)扶養義務者に対する通知や報告要求は家庭裁判所を活用した費用徴収が行われる蓋然性が高い場合に限定することなどを明記する内容に書き直すことを求める。
 以下、問題点を列記する。
 問題点の第1は、口頭申請の扱いについてである。省令案は、申請書提出を必須とし、原則として口頭申請が認められないかのような内容となっている。口頭でも良しとされている従来の生活保護申請の取り扱いと異なるため、多くの批判を招き、国会では、申請行為と申請書の提出行為は別であることを明確にする法文修正が行われた。加えて、参議院厚生労働委員会附帯決議でも「申請行為は非要式行為であり、……口頭で申請することも認められるというこれまでの取扱い……に今後とも変更がないことについて、省令、通達等に明記の上、周知する」とされた。ところが、省令案は、「保護の開始の申請等は、申請書を……保護の実施機関に提出して行うものとする」として修正前の法文と同じ内容とされ、口頭申請を原則として認めない書き方になっている。
 さらに省令案は、口頭申請が認められる場合が身体障害等の場合に限定されるかのような記述をした上、口頭申請が認められる場合について、「保護の実施機関が当該申請書を作成することができない特別の事情があると認める場合は」と書き込み、改正生活保護法第24条第1項ただし書の「当該申請書を作成することができない特別な事情があるときは」の表現にはない、実施機関への「特別の事情の有無」を判断する無限定な裁量権を与えている。
 問題点の第2は、改正生活保護法第24条第2項の要否判定に必要な書類の提出の取り扱いについてである。改正法案原案をめぐる国会審議では、申請書に要否判定に必要な書類をすべて添付すべしと読める内容であったため、批判を招き、これまでの取扱いに変更がないことを明確にするため、ただし書を設けるという法文修正が行われ、国会答弁を踏まえて前記附帯決議で「要否判定に必要な資料の提出は可能な範囲で保護決定までの間に行うというこれまでの取扱いに今後とも変更がないことについて、省令、通達等に明記の上、周知する」とされた。しかし、省令案には、この点に関する記述がない。明らかに、国会答弁や附帯決議に反している。

 問題点の第3は、扶養義務者に対する通知の問題である。改正生活保護法では、扶養義務者に対する通知義務を定めた第24条第8項、扶養義務者に対して報告を求めることができるという第28条が新設された。この規定については、従来、「保護の実施要領(告示・通知)」の範囲でおこなってきたものを法律に入れたこと自体が問題であり、扶養義務者に対する扶養の要求が強められ、事実上扶養できないことが保護の前提条件とされかねないとの当然の批判を招いた。それに対し、国会答弁では、「福祉事務所が家庭裁判所を活用した費用徴収を行うこととなる蓋然性が高いと判断するなど、明らかに扶養が可能と思われるにもかかわらず扶養を履行していないと認められる極めて限定的な場合に限ることにし、その旨厚生労働省令で明記する予定である」と説明されていた。ところが省令案では、原則として通知や報告要求を行うが、「保護の実施機関が、当該扶養義務者に対して法第77条第1項の規定による費用の徴収を行う蓋然性が高くないと認めた場合」等に例外的に通知等を行わないものとし、驚くべきことに原則と例外を逆転させている。
 以上、多くの反対意見をふまえてわずかながらも修正がなされた法文を、施行規則の段階で再び権利性を弱める方向に差し戻しさせるかのような本省令案は認めがたい。また、このままでは日本国憲法第25条で保障されている生存権を実質上、脅かしかねない内容でもある。よって全労連は、本省令案を、少なくとも、上記の国会答弁や附帯決議等を反映させた内容に修正することを求める。
以上