今回は数年ぶりに内田博文さん(神戸学院大学法科大学院教授)が「再犯防止を掲げる刑事政策と医療観察法」という講演を行いました。内田さんは医療観察法に見られる施設内での保安処分と保護観察を利用した社会内での処遇を二本柱としているのが日本型保安処分の特徴であり、その起源は戦前の治安維持法にあると言います。社会内処遇では社会自体が保安処分の担い手とされ、家族、医療、福祉団体も利用されていると指摘します。欧米では日本のように名誉職の保護司ではなく、専門職が更生保護にあたっているとのことです。今後、刑期満了者に対する新たな制度が検討されており、ますます保安処分的な流れが強まる懸念が示されました。
内田さんは、日弁連の意見書について、弁護士の付き添い人活動で医療観察法の保安処分化を阻止して医療法として純化してきたかのような自負が見られると言います。同時に医療観察法は医療法としても破綻していることを指摘しました。疾病性、治療反応性という要件を満たさないケースへの入院処遇命令、期間の定めのない拘束、地域での受け皿がないと言う理由による入院の長期化、入院中の自殺者の発生、クロザピン処方による通院機関の遠方化等々、地域生活とかけ離れた治療が治療として意味を持つのかという問題は、これまでこの集会で何度も指摘されてきたとおりです。私は取り調べ段階での可視化の問題を質問しました。内田さんは可視化が自白調書の正当性を示すために利用されうるため、可視化よりも障害をよく理解している専門職が取り調べに立ち合ってサポートにあたることが大切だと述べました。東京弁護士会の障がいのある方の刑事事件への取り組みが、障害種別に関わらず広がっていくことが可視化よりも実効的だと思いました。
特別報告では京都前進友の会の方が、医療観察法で申し立てられた仲間を救うためにどのように活動したかを報告しました。この当事者同士の仲間の活動は「ルポ 刑期なき収容」にも書かれていました。また、医療費扶助・人権ネットワークの内田明弁護士が、行政、民間クリニック一体となった生活保護を受給している当事者の囲い込みの実態が報道された、榎本クリニック問題を報告しました。
リレートークでは兵庫から障害年金の切り下げ問題や、京都から差別禁止条例についての報告や訪問診療を行っている内科医や精神科病院労組の報告、さらに医療基本法制定に取り組む患者の権利法を作る会から報告がありました。
交流会では、医師の岡田靖雄さんが犯罪をどこまで病気だと考えるか?という犯罪の医学化の問題を指摘しました。今ネットでは「『性暴力は病気』認知高まる薬物療法 揺れる医学界」というニュースが流れています。薬物療法だけではなく遺伝子治療や優生学が保安処分のために利用されるならば、映画「時計仕掛けのオレンジ」よりも恐ろしい世界が広がっていくかもしれません。
一年に二回開かれるこの集会は、医療観察法だけでなく障害者権利条約や障害者基本法や障害者差別解消法、精神保健福祉法などの国内の医療福祉関連法について、またそれらをとりまく国や行政や私たちの社会のあり方、そして支援とは何かを考えるために大変内容の濃い集会です。資料、録音あります。関心のある方は組合へ連絡ください。(林)
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